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「アラカン!」な日々

「アラカン!」公演情報を随時アップ(管理人・唐沢@作者)

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カットはこわい!

 もう少し頻繁にレポをアップしようと思っていたのに、前のレポからはや1週間。
 公演は、中日も過ぎてすでに後半戦に入ってます。
 お陰さまでレビューの評判もよく、追加注文も相次ぎ、ダブルコールも連日続いているようです。

 11日の初日のあと、13日、15日、シアタートークのあった16日…とこれまで4回通いましたが、やはり私の乏しい体力ではこれでもいっぱいいっぱい。
 劇場に行かない日はゆっくり休もうと思いつつも、身体の緊張がずっと解けないままなので(これが解けたときは入院するときになるかも…)、休みたくても休まらず。

 寝付くのは眠剤飲んでなんとかなるんだけど、いつもより平均2時間くらい早くに目が覚めてしまうのはどうにもならず。
 普通だったら「もっと寝る〜」って思えば何度寝でもできるんだけど、今は一度目が覚めるともう眠れません。
 やっぱ寝てても緊張解けてないんですね。
 胃の調子も一時よりは回復したけど、ちょっと油断するとまたすぐにダメージがくるので気を許せません。

 まあ、そんな話はどうでもいいんですが、本題はここから。
 これから観る人のためにネタバレは極力避けようと思っていたのですが、ちょっとショックなことに気づいてしまったのでこれは書こうと思います。

 今回の作品、もとは多分3時間くらいあったと思います(稿を重ねて自分なりにストイックに削りまくったつもりですが)。
 正直、長いです。
 大劇場系の演目はけっこう長いのが当たり前だったりしますが(休憩時間も長いですし)、決して座り心地のよい椅子とは言えない狭い劇場でストレートプレイ3時間というのは、いくら休憩を入れたとしても長いです。

 「おもしろければ3時間でもあっという間だが、つまらなければ30分でもお尻が痛くなる」…というのは舞台をよく観る人なら実感することではあるのですが、蓋を開けてみなければ、おもしろくなるかどうか、短く感じてもらえるかどうかがわからない新作の場合、長時間になるのは非常にリスキーと言わざるをえません。
 実際、エコーでいつも上演する作品では2時間半を越えるものはまずないと思います。
 そういうわけで、なんだかんだで合計すると30分くらいカットされました。

 カットが嬉しい作家なんてまずいないと思います。
 誰よりも長く作品と向き合ってきたのですから、一字一句削られたくないというのが本音です。
 一言切られるたびに文字通り身を切られるような思いをします。
 それでも「全体を短くするためにはどこかを切らなければしかたないんだ」と自分に言い聞かせるわけですが、セリフを切っておいてべつの場所で余計なセリフをいつのまにか加えられてたりすると「こんなの足せる余裕があるんならさっきのセリフ戻してよ」と思うときもあります。
 まあ、思うだけで言いませんけどね。

 もちろん、作家以外だからこそできる「なるほど〜」というカットもたくさんあります。
 セリフ以外のもの(おもに演出ですが)が加わることで「あ、このセリフは不要だわ」と気づくこともありますし。

 でも、カットのこわいところは、その部分じゃなくて他に影響が出るってこと。
 カット前には成立していたバランスが、ひとつのセリフをカットすることで崩れてしまう場合があるんです。
 バランスっていうか、「設定」って言ったほうが近いかな。

 作家や演出家はカット前の状態を知っているから、それが脳内にインプットされちゃって、削ってもパソコンのキャッシュみたいな感じで残っちゃってる。
 でも当然のことながら観客はカット前に入ってたセリフなんて知らないし、何度も観るわけではないので、何度も何度も読み返して再現して確認しているキャストやスタッフとはスタンスが違う。
 その違いっていうのが、意外に落とし穴になるんですよね。

 今回、観てきた人の感想を聞いているうちに、思いがけずそれをみつけてしまったんです。
 それは冒頭に流れる劇団明星の創設者・広川(納谷さん)のセリフ。
 以下、台本から転載します。

ああ、この俺が世の嘲りの的となって、身動きもならず、
じりじりと進む時の針先にこの身をさらすことになろうとは!
いや、それならばまだ耐えてみせよう。
だが、俺の心を大切にしまっておいたおまえのその胸、
生きるも死ぬるもここと思いさだめた場所、
俺の命の川がほとばしりもすれば涸れはてもする泉──。
そこから投げ捨てられてしまうのは耐えられない!
その泉を、けがらわしいヒキガエルどもがつるんだり孕んだりする水溜まりにしようというのか!

 
 実際はもう少し短く刈り込まれていますが、冒頭で暗闇の中からこのセリフが流れてきて、そこから話が始まります。
 さらに、何度か場面転換のときに広川の肖像画(稽古場に掲げられているという設定)に照明が当たり、その都度同じセリフが繰り返され、それに対して登場人物がそれぞれリアクションのセリフを返すわけです。

 じつはこのセリフ、『オセロー』のセリフからの引用なのですが、それがわからなかった人が予想以上に多かったんです。
 いや、お客さんが『オセロー』を知らないのはいいんです。
 逆にこのセリフをきいただけでいきなり『オセロー』のあの場面のセリフだなとわかる人のほうが非常に限られてると思います。

 でも、これが『オセロー』のセリフだということは、知らない人でも最後まで観ればわかるように初稿ではなっていたんですよ。
 舞台では、アラカンたちによって再現される『オセロー』の劇中劇が何度か差し挟まれるんですが、その中に同じセリフが出てくるんです。
 具体的にはオセローがデズデモーナに「おまえ、俺を裏切っただろ」とネチネチ責め立てるシーンですが。

 そこを観れば「ああ、さっきから納谷さんの声で何度も流れるあのセリフってこのシーンのセリフだったんだ」「昔、広川が演じたときのオセローのセリフだったんだ」と普通にわかるようになってたわけで、八神が片瀬に向かって言い放つ「将軍、用心なさい。嫉妬というやつに。こいつは緑の目をしたバケモノです」というセリフも、次の稽古場シーンで八神演じるイアーゴーが同じセリフを言うので『オセロー』のどこで出てくるセリフなのかわかる。

 ところが、劇中劇のシーンが長過ぎるということで、かーなーりーバサバサ切りまくった結果、冒頭のセリフもカットされてしまったんですね。
 そりゃあわかんないわなー。
 なんかあれ、広川自身のセリフ(リアルなセリフではなく警句のような抽象的なイメージ)だと思ってる人が多いようで。
 台本には「『オセロー』第4幕第2場のセリフ」と但し書きがつけてあるし、関係者はもうオセローのセリフだってわかってるんで、わかんないとか思いもしなかったんですが、それだけにショックでした。

 まあ、それでも本編に支障がないといえばないんだけど、自分の中では『オセロー』の中であのセリフをみつけた瞬間から、他の話がすべて『オセロー』がらみでたちあがってきたという経緯があるので、 (´・ω・`)ショホ゛ーンでした。

 自分のアイデンティティーとなる「神聖な泉」が、オセローにとってはデズデモーナだったわけですが、じゃあ片瀬にとっては?…月島にとっては?…八神にとっては?…と順番に語られていき、もっとふくらんでアラカンたちにとっては?…明星にとっては?…役者にとっては?…観客にとっては?……と広がっていけばいいなと思ったんですが、オセローにこだわった意味がカットされるたびに削られていってしまうのがちょっと寂しかったです。

 上演中にこんなことを書くのはルール違反かもしれません。
 上演されたらもうその作品は作家のものではなくなりますし、どう受け取られようとそれはそれでまるごと受け止めなければいけないということはわかっているのですが、何人もの人から「え?あれオセローのセリフだったの?」と言われたのがショックだったのと、その原因があのカットにあったのか!と気づいたことがショックだったのと、二重にショックだったので思わず書いてしまいました。

 ネタバレというたぐいの話ではないので書きましたが、やっぱりカットって難しいですね。
 小椋キャシオーではないですが「失敗した〜。カットはこわ〜い!」という気分です。

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公演概要



テアトル・エコー公演vol.142「アラカン!」

作  ●唐沢伊万里
演 出●永井 寛孝

公演日●2011年11月
    11日(金)19;00
    12日(土)14;00
    13日(日)14;00
    14日(月)19;00
    15日(火)19;00
    16日(水)14;00
    17日(木)14;00
    18日(金)14;00
    19日(土)14;00
    20日(日)14;00
    21日(月)19;00
    22日(火)19;00
    23日(水)14;00
         計13回公演

料 金●一般5,000円(全席指定)
会 場●エコー劇場(恵比寿)
前 売●10月8日開始
問合せ●テアトル・エコー
※割引料金、出演者情報などの詳細はエコーHPにてご確認ください。 ※16日は終演後シアタートークあり。

プロフィール

HN:
唐沢伊万里
性別:
女性
職業:
劇作家
趣味:
ガーデニング

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