「アラカン!」な日々
「アラカン!」公演情報を随時アップ(管理人・唐沢@作者)
千龝楽なう
- 2011/11/25 (Fri)
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11月23日。
『アラカン!』、千龝楽を無事迎えました。
初日の幕が開くまでは劇団中が不安で充満していました。
稽古期間が短かったこと。
その短さの中でもさらにアクシデントで稽古に出られない人が相次ぎ、まったく余裕がなかったこと。
といった物理的な理由に加え、内容的にも新作というのはまだ誰も完成品を観たことがないし、評価も受けたことがないため、どの人にも少しずつ「恐怖」があったこと。
しかも内容は「バックステージもの」。
自分たちの仕事場が舞台となり、役者が役者を演じるため、微妙な問題がいろいろ出てきます。
知り過ぎているだけに向き合いたくないこともあるだろうし、「役」と「自分」をごっちゃにして冷静さを失う危険もありました。
「こんなセリフ言えない」と抵抗を示され、変更されたこともありました(←まだカットにこだわってる)。
結果的に観客に受け入れられた…という事実のあとならばなんとでも言えますが、稽古段階では実績のない新人作家ということがすべてマイナスに働きました。
言いたいこと、伝えたい事はすべてこの作品の中にある。
でもホンだけでキャストスタッフを説得できない、動かせないという無力感。
変えられるたびに「そうじゃなくて」「そういうことが言いたいんじゃなくて」と後ろから羽交い締めにしてとめたい気分だったけど、稽古に入ったら作品はもう現場にいる人のもの。
彼らが作品を愛し、よりよいものにしようと全力を注いでくれることを信じるしかない。
それでも不安の矛先がこちらに向いてくるのはどうしようもなく、稽古場に出るのも正直とても気の重い日々でした。
役者の皆さんが本当に余裕がないというのも見ていてわかったし。
そのピリピリした緊張感が一気に至福の喜びに変わった瞬間。
それが初日の公演でした。
まさしくオセロゲームの駒が一瞬で反転するかのように…。
夢にも思わなかったダブルコールが起こったとき、オセロー役の根本さんはすでに楽屋にひきあげていたそうです。
楽屋のモニタでダブルコールが起きていることを知り、あわてて階段をかけおりて舞台に戻ったけれど、最初は何が起こってるのかわからず、拍手を聞いて初めてぶわっと涙が噴き出たそうです。
「幸せだった」
その一言が出演者全員の気持ちだったと思います。
私は全公演観たわけではないんですが、個人的には初日の公演が一番よかったと思います。
舞台じたいの出来とかお客さんの反応とか、それは毎日違うのでもっとよかった日もあるんだけど、初日はやっぱり特別。
それはやる方も観るほうも「すがるもの」がいっさいない状態で真剣勝負をしているからです。
2日目以降は、「この芝居が受け入れてもらえた」という確信が安心感になり、どうしても初日ほどの緊張感はなくなるし、もっといいとこを見せようとして個人プレーが多くなってきたりします。
一方、観客のほうも口コミなどである程度前評判をきいてくる人が増えてくるので、まっさらな目ではなくなります。
「初日好き」のお客さんはそういうことも含めて初日を観たがるんでしょうね。
千龝楽もまた特別な日です。
すべてのセリフ、動作に「もうこれが最後なんだな」「二度とできないんだな」という思いがまとわりつき、いつもよりいっそう「無常感」が漂います。
すべてを出しつくそうというみんなの気持ちで、いったん個人プレーに傾きかけた部分が再び一体感へと集約されていき爆発!…って感じでしょうか。
その結果、千龝楽ではついにトリプルコールが起こりましたw(°0°)w
それはもう言葉では言い表せないほどの感慨でした。
今回、作家も無名だし、作品も新作だし、評価のさだまった翻訳ものでもないし、本公演といえども劇団の看板スター(熊倉さんとか安原さんとか)が出ている訳でもないし…ということで、公演前のパブリシティーではけっこう苦戦していました。
プレス担当者への案内状も精一杯興味をひくように書いてみましたが、反応はさっぱり。
取材にきてくれるところもなく、通り一遍の公演情報が載るのみ。
ただでさえ公演数の多い季節ですからしかたがないとはいえ、「こんなものでしょ」と諦めてる風の制作の空気もなんとなくかいまみえたりして、もどかしさでいっぱいでした。
とにかく前半は埋めようよ!
必死に埋めようよ!
もし内容がよければ後半は口コミで埋まるから!
そう言い続けて死にものぐるいで売りましたが、これに関しては売るほうにも温度差があるので一人でどうにかするのも限界があり…。
案の定、危惧していた平日ソワレが薄くなり、前半でほぼ満席にできたのは初日とそれに続く土日のみでした。
ところが…。
初日があけて日が経つにつれて、追加注文が目に見えて増え始めたのです。
シアタートーク以降は次々に売り止めになり、「どこでもいいから入れてくれ」とチケットブースで訴えるお客様をお断りせざるをえないこともしばしば。
やる方としては「こんなことなら追加公演を」と思いたくなりますが、前売りの時点で完売とかにならない限り、初日があいてから追加公演を入れるというのは無理。
残念ですがしかたありません。
「再演を」「旅公演を」という気の早い声もありますが、公演のレパートリーはかなり先まで決まってますし、上演にこぎつけるにはいろいろな条件をクリアしなければなりません。
そう考えると、「今、この瞬間に、同じ場所で、初めて出会った役者と観客がたったひとつの世界を作り上げる」というのは一回一回が「奇跡」なんだなとあらためて思います。
個人的な話ですが、私自身も健康状態の悪化があって、いつまで自分の力を出し切れる作品が書けるのか自信がありません。
「これが遺作かも」というとみんな本気にしないんですが、そのくらいの気持ちで書いているのは本当です。
もし元気だったらこんな内幕ブログ書かないし。
もっと劇団とうまくやって、次につなげなきゃと思うし。
一時的な病気ならいいんだけど、私の場合は治るものではないし、書けば確実に寿命縮めるし、QOLとの相談でやってる状態なので、書くときは命削る覚悟でやるしかないのです。
打ち上げでも気軽に「新作を」とか「今度はこんな話を」とか連呼されましたが、「一回の新作につき、腫瘍が何ミリ増大する」とかそれくらい具体的にシビアな状態なんで、それでも書きたいと思えなければ書けないです。
今日は母の二回目の命日。
母は私と同じ病気だったんですが、ちょうど今回の公演の話が決まった直後に一気に病気が進行し、「私はクリスチャンだから死ぬのはこわくないけど『アラカン!』を観られないのだけは悔しい」と言いながらこの世を去りました。
そのどん底からここまで力を出し尽くせたのも、母に胸を張って見せられるものを作りたいという気持ちに支えられてきたからです。
身体の弱かった母だけど、今回は肉体からも自由になり、連日でも劇場通いができたと思います。
満足してくれたかな……。
『アラカン!』、千龝楽を無事迎えました。
初日の幕が開くまでは劇団中が不安で充満していました。
稽古期間が短かったこと。
その短さの中でもさらにアクシデントで稽古に出られない人が相次ぎ、まったく余裕がなかったこと。
といった物理的な理由に加え、内容的にも新作というのはまだ誰も完成品を観たことがないし、評価も受けたことがないため、どの人にも少しずつ「恐怖」があったこと。
しかも内容は「バックステージもの」。
自分たちの仕事場が舞台となり、役者が役者を演じるため、微妙な問題がいろいろ出てきます。
知り過ぎているだけに向き合いたくないこともあるだろうし、「役」と「自分」をごっちゃにして冷静さを失う危険もありました。
「こんなセリフ言えない」と抵抗を示され、変更されたこともありました(←まだカットにこだわってる)。
結果的に観客に受け入れられた…という事実のあとならばなんとでも言えますが、稽古段階では実績のない新人作家ということがすべてマイナスに働きました。
言いたいこと、伝えたい事はすべてこの作品の中にある。
でもホンだけでキャストスタッフを説得できない、動かせないという無力感。
変えられるたびに「そうじゃなくて」「そういうことが言いたいんじゃなくて」と後ろから羽交い締めにしてとめたい気分だったけど、稽古に入ったら作品はもう現場にいる人のもの。
彼らが作品を愛し、よりよいものにしようと全力を注いでくれることを信じるしかない。
それでも不安の矛先がこちらに向いてくるのはどうしようもなく、稽古場に出るのも正直とても気の重い日々でした。
役者の皆さんが本当に余裕がないというのも見ていてわかったし。
そのピリピリした緊張感が一気に至福の喜びに変わった瞬間。
それが初日の公演でした。
まさしくオセロゲームの駒が一瞬で反転するかのように…。
夢にも思わなかったダブルコールが起こったとき、オセロー役の根本さんはすでに楽屋にひきあげていたそうです。
楽屋のモニタでダブルコールが起きていることを知り、あわてて階段をかけおりて舞台に戻ったけれど、最初は何が起こってるのかわからず、拍手を聞いて初めてぶわっと涙が噴き出たそうです。
「幸せだった」
その一言が出演者全員の気持ちだったと思います。
私は全公演観たわけではないんですが、個人的には初日の公演が一番よかったと思います。
舞台じたいの出来とかお客さんの反応とか、それは毎日違うのでもっとよかった日もあるんだけど、初日はやっぱり特別。
それはやる方も観るほうも「すがるもの」がいっさいない状態で真剣勝負をしているからです。
2日目以降は、「この芝居が受け入れてもらえた」という確信が安心感になり、どうしても初日ほどの緊張感はなくなるし、もっといいとこを見せようとして個人プレーが多くなってきたりします。
一方、観客のほうも口コミなどである程度前評判をきいてくる人が増えてくるので、まっさらな目ではなくなります。
「初日好き」のお客さんはそういうことも含めて初日を観たがるんでしょうね。
千龝楽もまた特別な日です。
すべてのセリフ、動作に「もうこれが最後なんだな」「二度とできないんだな」という思いがまとわりつき、いつもよりいっそう「無常感」が漂います。
すべてを出しつくそうというみんなの気持ちで、いったん個人プレーに傾きかけた部分が再び一体感へと集約されていき爆発!…って感じでしょうか。
その結果、千龝楽ではついにトリプルコールが起こりましたw(°0°)w
それはもう言葉では言い表せないほどの感慨でした。
今回、作家も無名だし、作品も新作だし、評価のさだまった翻訳ものでもないし、本公演といえども劇団の看板スター(熊倉さんとか安原さんとか)が出ている訳でもないし…ということで、公演前のパブリシティーではけっこう苦戦していました。
プレス担当者への案内状も精一杯興味をひくように書いてみましたが、反応はさっぱり。
取材にきてくれるところもなく、通り一遍の公演情報が載るのみ。
ただでさえ公演数の多い季節ですからしかたがないとはいえ、「こんなものでしょ」と諦めてる風の制作の空気もなんとなくかいまみえたりして、もどかしさでいっぱいでした。
とにかく前半は埋めようよ!
必死に埋めようよ!
もし内容がよければ後半は口コミで埋まるから!
そう言い続けて死にものぐるいで売りましたが、これに関しては売るほうにも温度差があるので一人でどうにかするのも限界があり…。
案の定、危惧していた平日ソワレが薄くなり、前半でほぼ満席にできたのは初日とそれに続く土日のみでした。
ところが…。
初日があけて日が経つにつれて、追加注文が目に見えて増え始めたのです。
シアタートーク以降は次々に売り止めになり、「どこでもいいから入れてくれ」とチケットブースで訴えるお客様をお断りせざるをえないこともしばしば。
やる方としては「こんなことなら追加公演を」と思いたくなりますが、前売りの時点で完売とかにならない限り、初日があいてから追加公演を入れるというのは無理。
残念ですがしかたありません。
「再演を」「旅公演を」という気の早い声もありますが、公演のレパートリーはかなり先まで決まってますし、上演にこぎつけるにはいろいろな条件をクリアしなければなりません。
そう考えると、「今、この瞬間に、同じ場所で、初めて出会った役者と観客がたったひとつの世界を作り上げる」というのは一回一回が「奇跡」なんだなとあらためて思います。
個人的な話ですが、私自身も健康状態の悪化があって、いつまで自分の力を出し切れる作品が書けるのか自信がありません。
「これが遺作かも」というとみんな本気にしないんですが、そのくらいの気持ちで書いているのは本当です。
もし元気だったらこんな内幕ブログ書かないし。
もっと劇団とうまくやって、次につなげなきゃと思うし。
一時的な病気ならいいんだけど、私の場合は治るものではないし、書けば確実に寿命縮めるし、QOLとの相談でやってる状態なので、書くときは命削る覚悟でやるしかないのです。
打ち上げでも気軽に「新作を」とか「今度はこんな話を」とか連呼されましたが、「一回の新作につき、腫瘍が何ミリ増大する」とかそれくらい具体的にシビアな状態なんで、それでも書きたいと思えなければ書けないです。
今日は母の二回目の命日。
母は私と同じ病気だったんですが、ちょうど今回の公演の話が決まった直後に一気に病気が進行し、「私はクリスチャンだから死ぬのはこわくないけど『アラカン!』を観られないのだけは悔しい」と言いながらこの世を去りました。
そのどん底からここまで力を出し尽くせたのも、母に胸を張って見せられるものを作りたいという気持ちに支えられてきたからです。
身体の弱かった母だけど、今回は肉体からも自由になり、連日でも劇場通いができたと思います。
満足してくれたかな……。
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カウンタ
公演概要
テアトル・エコー公演vol.142「アラカン!」
作 ●唐沢伊万里
演 出●永井 寛孝
公演日●2011年11月
11日(金)19;00
12日(土)14;00
13日(日)14;00
14日(月)19;00
15日(火)19;00
16日(水)14;00
17日(木)14;00
18日(金)14;00
19日(土)14;00
20日(日)14;00
21日(月)19;00
22日(火)19;00
23日(水)14;00
計13回公演
料 金●一般5,000円(全席指定)
会 場●エコー劇場(恵比寿)
前 売●10月8日開始
問合せ●テアトル・エコー
作 ●唐沢伊万里
演 出●永井 寛孝
公演日●2011年11月
11日(金)19;00
12日(土)14;00
13日(日)14;00
14日(月)19;00
15日(火)19;00
16日(水)14;00
17日(木)14;00
18日(金)14;00
19日(土)14;00
20日(日)14;00
21日(月)19;00
22日(火)19;00
23日(水)14;00
計13回公演
料 金●一般5,000円(全席指定)
会 場●エコー劇場(恵比寿)
前 売●10月8日開始
問合せ●テアトル・エコー
※割引料金、出演者情報などの詳細はエコーHPにてご確認ください。
※16日は終演後シアタートークあり。
プロフィール
HN:
唐沢伊万里
性別:
女性
職業:
劇作家
趣味:
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